所感 ネタバレです
これもずっと見たかったドラマでした。
張若昀(チャンルオユン)に王陽(ワンヤン)に呉剛(ウーガン)という、慶余年トリオがメインどころにいて、周囲を固めるおじさん達も、見たことのある人達がいっぱいです。
金安府の小役人、宋仁(ソンレン)は、「猟罪図鑑」の閆さん@房子斌(ファンズービン)。
攬渓知県の毛攀鳳(マオファンフォン)は、「天才基本法」の小萌父@翟小兴(ヅァイシャオシン)。
万成主簿の任意(レンイー)は、「開端」のルーディ父@銭漪(チェンイー)。
一番のエライさん李世達(リーシーダー)は、「風起隴西」の李厳@尹鋳勝(インジューション)。
仁華の方(ファン)知県の側近に、「君子盟」の玄機@楊雲棹(ヤンユンチャオ)
他にも覚えてはないけど、絶対どっかで見てるおじさん達が多かったんだけど、もうひとり、忘れちゃならない方がいらっしゃいましたよ。
程仁清(チョンレンチン)@王陽の因縁のライバル、馬文才(マーウェンツァイ)。
あれ、この顔知ってるーと思ったら、この方も「慶余年」組よ、林珙(リンゴン)@康杰(カンジエ)よー。王陽が演じた滕梓荊(トンズージン)の仇みたいなもんじゃんかー。
こちらでは、実力でも恋愛でも程仁清には勝てなくて、その腹いせに科挙の試験で程仁清を陥れて、自分は高官になって偉そうにしてる役。そのせいで程仁清は、仕官の道も閉ざされて訟師になるしかなかった。訟師は弁護士みたいなもののようだけど、現代の弁護士センセイとは違って、お金さえ積めばその弁舌で、嘘をついてでも無罪を勝ち取ってくれるって認識で、当然官吏に比べると地位は低い。訟師風情が政治に口を出すな、みたいに言われちゃうくらい。挫折を経た後のこの人の今までの仕事ぶりが「そう」だった訳でもあるけど。
だけど、馬文才はしっかりと悪事がバレて報復を受けましたわよ。メデタシメデタシ?(^m^)
日本の時代劇でも、厳しい年貢の取り立てにあえぐ農民に対して、大地主はいろいろ上手いことやってて独り勝ちとか、そういう図式は容易に浮かびますが。
中国でもそれは同様。あちらでは地方の大地主みたいなんを、郷紳っていうんですね。

そんな郷紳のひとり、元高官の范淵(ファンユエン)@呉剛は、税金軽減のために自分の持つ農地の面積を小さく登録してた。末端官吏に賄賂を渡して。特に妖田と呼ばれる、境界線が曲線で面積の測りにくい田んぼなんかを。
対して、貧しい農民たちの農地の面積は少しだけ大きく登録されてた。税金が払えなくなった農民たちの農地は郷紳にどんどん買い上げられていき、彼らは小作人となってそこで働くしかないので、更に郷紳は肥えていくという図式。それは范淵に限ったことじゃなく、あちこちで暗黙の了解的に行われていたものらしい。
さまざまな立場の官吏たちの思惑だの忖度だのも絡み合って、その図式は長い間続いており、慣習や馴れ合いで丸く収まっていた田舎の政治は、簡単には崩れるものじゃなかったんだけど。
そこに、空気なんぞ読めない算術バカ、帥家黙(シュアイジアモー)を、ぽんっと放り込んだらどうなるか。そんな化学反応から転がっていく顛末を楽しむドラマ、みたいな感じなんですよ。
ひょんなことから帥家黙は、本来、金安府の8県で均等割すべき税金3530両を、なぜか仁華県だけが人頭絹布税という名目で負担していたことに気付き、それを正そうと訴え出ます。
でも、逆に罰を受けてしまった帥家黙。
実は彼は、登録されている農地面積の間違いにも気付いてたんだけど、この税金にまつわる間違いに隠されていた不正には、この土地面積の問題も大きく関わっていたのでした。
彼は頭の病気だとか算術バカとか言われてたけど、知能に問題はないんだよね。それにしては、ちょいと演技が気になったりはしましたが。ASD傾向のありそうな、PTSDも持ってそうな感じ。人間関係だの人情だの気遣いだの忖度だの、自分の損得さえも一切関係なく、ただ間違っている数字を正したいだけの人。その主張には他になんの思惑もなく。
あ、ひとつありましたね。陥れられて罪を被せられ亡くなっていた父親から、忘れるなと言われていた数字、3530両。
彼の個人的なこだわりはその数字のみ。あとは、ただただ、間違っている数字を正しくしたいだけ。
命の危険に晒されながらも、ここじゃダメだ、もっと上、もっと先と、訴え続けて行く帥家黙。
そんな彼の主張に、親友、豊宝玉(ファンバオユー)やその姉、豊碧玉(ファンビーユー)、最初は范淵に雇われた訟師の程仁清、地方官吏たち、その上役の金安知府、さらに巡按御史、巡撫、そういった人達が、どういう立場や思惑やバックグラウンドを持って関わっていくのか。どう変化していくのか、しないのか。
そういうおじさん達の右往左往を、見比べながら眺めて楽しむドラマだったような気がします。
結局、帥家黙の父が息子に伝えた数字は、まんまその不正の数字。親子共々それに気付き、それを正そうとした訳でした。でもそれで父は横領の罪を着せられ、命を落としてた。
息子同様、算術が得意だった帥家黙の父は、妖田の面積を正確に測れる技を持っていたので、数字の違いに気付いてしまい、その違いは故意だったってことにも、気付いてしまったため。で、パパはその不正を暴くための大事な資料も残してたりした。
父親と懇意にしていて、父親の死後も息子を気にかけてくれていた人物が、実は父親を陥れてたりしてさ。息子を気にかけていたのは、自分の関与を思い出すんじゃないかと監視してたから、とかさ。
波風たてずに何事もなく官吏人生を終えればいいと、事なかれ主義だった人物が、思い切って正義の発言をしたら民衆から称えられ、嬉しくなっちゃって、すんごく勇気を振り絞れる人になっちゃったりさ。この人、仁華の方(ファン)知県は妙に可愛かったよね~。
知県仲間?の3人も、ふたを開ければ決して一枚岩ではなく、それぞれ重要な役割で存在していて、面白かった。

程仁清も、最初は范淵と懇意にしていて、重用されていると思ってその弁舌を振るい、帥家黙を罪人にしようとしたんだけど。そもそも范淵は、程仁清なんて便利に使える駒くらいにしか思ってなかったことに、馬文才の登場と共に気付いて、こっそりと立場を変えてったりします。
敵役としても味方としても、立て板に水の弁舌はすごかった。口が回らんよ、あんなにさー。
なんと言っても、一番いい役だったのは、親友の豊宝玉じゃないかなあ。
この人は、しっかり者のお姉ちゃんが事業をしているので、遊び人でいられる放蕩息子みたいなもんだったんだけど、友達の帥家黙の主張を一生懸命サポートしようとしてくれます。最初は、帥家黙と一緒に不正を暴けば、自分の名声も上がるはずって目論見を持っていて、必ずしも清廉な正義感で手助けした訳ではない。だけど、そんな簡単なものじゃなかった、とっても危険な道だったと分かった後でも、手を引こうとはしません。何より、変人としてバカにされてる帥家黙のことを、この人とお姉ちゃんだけはバカにしないんだよね。彼の能力を使って、賭場で稼いでたこともあるけど(笑)
姉に守られて呑気に適当に暮らしていた弟が、一人前の男として立ち上がってく、みたいな成長を見せてくれました。最後も颯爽と罰を受けに去って行った程仁清の後を任されて、すんごく頑張った(^m^)

数字だの計算だのがズラズラと出て来たり、税金の仕組み云々が難しかったりするので、退屈だって感想もチラホラ目にしましたが。
私のように、そこら辺、理解を放棄しても(笑)さあ、こうなったらみなさん、どう出るんだ?と、周囲のおじさん達の動きを見ているだけで、結構面白かったのです。范淵は思ってたより小粒の悪役だったけども。
ラスト、帥家黙は猫ニャーを抱えて、旅に出るみたいな感じでしたが、このドラマ、原作のほんの少しの部分だけらしいので、続編も作る気なら作れるってことでしょうか。
だけど張若昀、続編ありのドラマを何本も抱えてる人じゃん?新しいのより、そっちを早いとこ進めてくれやって声も多いんではないだろうか。「慶余年」だって、2の先がまだまだあるんだよね?
范建役の高曙光が、早くしてくれないと、みんな年取っちゃうって言ってたみたいですが(笑)ほんとよ。慶帝役陳道明は1955年生まれ、范建も陳萍萍も費介も言若海も1960年代前半の人達です。早く進めてーっ。
そんな私はまだ2も見てないんですが、チャンネル銀河で7月に配信されるみたいなので、じきにU-NEXTにも来てくれるんではないかと、期待しておりますデス。
作品情報
- 制作 2023年発表 全14話 爱奇艺
- 原題 「显微镜下的大明之丝绢案」
- 出演 張若昀(帥家黙)、王陽(程仁清)、費啓鳴(豊宝玉)、戚薇(豊碧玉)
- 監督 潘安子
- 脚本 馬伯庸、周荣扬

人物相関図

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