あらすじと所感
評判通り、とても面白かったのですよ。
これは京劇ブロマンス的な立ち位置なんでしょうか。でも、ブロマンスというより、才能に惚れこんだ絆という感じだったかなあ、私には。むしろ、それが良かったんですが。
1930年代、民国時代が舞台のドラマというと、「紳士探偵L」も「ミステリー IN 上海」もそうでしたが、あちらは上海の租界という、外国資本の入り込んだレトロモダンを前面に押し出した世界でした。資産階級の人達が多く出て来て豪華で。
でもこちらは、北平、当時の北京が舞台なので、もっと庶民的。京劇が庶民の娯楽を支えていて、有名な役者は先生と呼ばれていたりするけど、その実、役者という職業の地位は余り高くはなく、どんなに素晴らしい才能と芸を持っていても、根も葉もない世間の噂であっさりとスポイルされてしまったりする。まあそれは、どの時代でも人気商売の性と言ってしまえばそうなんでしょうけど、かなりあからさまです。
主人公の商細蕊(シャンシールイ)は、実力も魅力も兼ね備えた京劇の女形で水雲楼という劇団の座長なんですが、芸に対してのこだわりが強く、長いものにも巻かれず阿らず、台本を改変して独自の芝居にしてしまうことも多々あるので、周囲からの風当たりが非常に強い人。でも、名実共に、北平一の人気役者でお客を呼べるために、京劇協会の姜栄寿(ジャンロンショウ)や息子の姜登宝(ジャンドンバオ)からは、目の敵にされて、様々な嫌がらせをされます。もーね、さいってーなのよ、この親子(笑)
そんな水雲楼に、こちらもまた北平一の豪商、程鳳台(チョンフォンタイ)というスポンサーが付きます。
彼はそれまで特に京劇に興味はなかったものの、連れて行かれた劇場で商細蕊の舞台を見て、心が動かされてしまい、非常に保守的な妻の范湘児(ファンシャンアル)の反対を押し切って、水雲楼のスポンサーになっちゃう。
程さんちには、この嫁の弟、范涟(ファンリアン)ってのがいて、仕事はからっきしダメなものの、芸術、京劇に傾倒している道楽坊ちゃん。問題ばっかり起こすんだけど、程鳳台と商細蕊を繋いでくれたと言っても過言ではない人。それだけじゃなく、結果的に商細蕊と范家程家の繋ぎ役にもなったんだけども。
程鳳台も、独自の輸送ルート確保のために、自ら拳銃持って周辺の賊退治に行っちゃったり、積み荷を襲われるために商人達が恐れて避けていた匪賊(ひぞく)という部族にも入り込んでいたりする、型破りな人で、こちらも商人達の協会の異端者なんですよね。
京劇のほうも商人のほうも、じじい達の言ってることはほぼ一緒。伝統がーだの、今までの規則がーだのを持ち出す割には、苦労して掴んで来た美味しいところだけは、協会が頂かないとー、みたいな。
この程鳳台、二旦那がですね、めっちゃカッコイイのです。黄暁明(ホアンシャオミン)。
こういう人に、なんでこんな奥さんなん?と、しばらくの間、思います(^m^)
最初に、二旦那は京劇には興味がなかったと書きましたが、確かに本人もそう口にしていたものの、実は彼にはルーツがありました。それも後半明らかになります。この人の生い立ちと共に。そこでこの、なんでこんな奥さんなん?も明らかに。
だけどこの奥さん、范湘児も、古い観念の持ち主だけど、実は有能で、旦那の危機には凛として立ち上がったり、それまで毛嫌いしていた商細蕊のことも、徐々に認めるようになってくれたりします。
前半はかなり苛つかされますけどね。でまた、二旦那がとても大切にしている、ように見える、これは本音か建て前か、結婚した時の負い目のためか、単純に家族間のイザコザ軽減のためかとか、いろいろ穿って見ちゃうんだよ(笑)
商細蕊という人は、めっちゃくちゃエキセントリックで、頑固でワガママで、もーね、子供かよっ!と、言いたくなるくらいというか、実際に観ながら何度も口走ったくらい、世間に合わせた生き方のできない人。小さい頃に攫われて買われて、京劇の役者になるために育てられたので、世間の常識を知らないってこともあるんだけど、それだけじゃない、あれは性格よね。ただ、納得するとめっちゃ素直になります。そういう時はカワイイんだけど、だとしても、こういう人の側に居続けるのは、ほんっとーに、大変だなと思わされます。凡人には無理。小来(シャオライ)エライ。
あ、小来は商細蕊の付き人みたいな、お世話係の女性です。姉であり妹であり母であり、家族であり。お話の流れで仕方ないとはいえ、とってもとっても健気でいい人なのに、悲劇に見舞われるんだよね…辛いのよね。
商細蕊の友達で文筆業の杜洛城(ドゥルオチョン)という、七坊ちゃんと呼ばれる人がいます。脚本も書き、複数ペンネームを使い分けて新聞のコラムも記事も書きっていう才能溢れる人なんですが、言うてもええとこのボンなので、二旦那と違って、情勢を読むのに甘さがあって、いくつかでっかいポカをやらかします。そのせいでかなりの窮地に陥ったりするんだけど、その時、二旦那が言うんだよね。アンタがついててなんでこんな…と。で、そう言いかけて、あ、そうだった、商細蕊の側にいられるんだから、アンタも同類だったよ、みたないことを(笑)
とはいえ、二旦那だって側にいるんだけどなっ。
二旦那って人は、どうしてこんなも?ってくらい、面倒見が良くて、目端が利いて、お金があって、厳しくも優しくて、全ての尻ぬぐいを買って出てくれるんですよ。スーパー二旦那。自分の事業のほうだって、めんどくさい問題山積み、そこに家族の問題もかなり厄介、どう見ても過労、どう見てもハゲそうってくらいの日々なんだけどさ(笑)
程さんちには、道楽坊ちゃんの義弟の他にも、二旦那の実の姉、程美心(チョンメイシン)と、妹の察察児(チャーチャーアル)がいて、姉は曹万鈞(ツァオワンジュン)という軍の司令官の妻、妹は、范湘児の意向で家に閉じ込めてるけど、日本では中学生くらいの年齢、だけど兄ベッタリ、です。
この姉は、若い頃、曹万鈞の息子の曹貴修(ツァオグイシウ)といい感じにはなっていたものの、その父親に嫁いだというね。
曹司令官も思惑を抱えてわざと日本軍に接近していたりして、息子とモメてたりして、まあ複雑。そのあおりを、まーんま二旦那が食っているというねえ。実業家としては、軍のエライさんが義兄ってメリットもあって、大きな仕事を手掛けられもするんだけど、それも紙一重だったりしてさ。
息子の曹貴修は、ずっとよく分からない人だったんだけど、二旦那を上手く使おうとして、逆にちょいっと謀られて、匪賊の頭の古大犁(グーダーリー)の種馬にさせられちゃうんですよ。なぜか歯まで折られて。ぷ。文字通り、種馬です。古大犁はとにかく跡継ぎを作りたかっただけなので。だけど、その一回でバッチリ妊娠しちゃって、二旦那が一発命中かよっみたいに大笑いするのが可笑しかった。で、その後、曹貴修は、なんだかんだと古大犁を心配して、保護しようしようとするんだよね。ちゃんと情のある人だったんだなーっていう。
あ、曹司令官役は「山河令」のドッスン…いや、高崇(ガオチョン)さんでしたよ。
程美心も最初の頃は、いろいろと難しいこともありつつつ腹をくくって生きて来た人って印象なんだけど、終盤、なんでそこまで?ってことをしてくれます。
妹もしかり。ピュアと言えば聞こえはいいけど。
でもあの時代、こういう子もいっぱいいたんだろうなあ。
そういえば、商細蕊の義父、京劇の師匠は、王茂蕾(ワンマオレイ)さんだったんですよねえ。なんかもう、ワカル!感。「成化十四年」の李子龍、や、「軍師連盟」の献帝とかされてた方です。どこで見ても怪演!って方ですよ。
商細蕊も認める京劇役者俞青(ユーチン)が、「鎮魂」の祝紅(ジューホン)だったり、同じ女形のライバル、陳紉香(チェンレンシャン)が「猟罪図鑑」の檀健次(タンジェンツー)だったり、あちこちに見かけたことのある方が出演されてました。「有翡」の青龍主もいたよ、こちらでは二旦那の忠実な側近だったよ♪
陳紉香の結末には驚いたなー。商細蕊よりも遥かに上手に、世の中渡っていたように見えたのに。繊細なアーティストの絶望、でも、そこなの?と。
だけど一番驚いたのは、七坊ちゃんの書いてた新聞社の社長、薛千山(シュエチャンシャン)だったかもしれません。この方、琅琊榜の蕭景睿(しょうけいえい)役の方だったんですよー。はー?全然分からなかった。あちらは一応、若者というカテゴリーの役だったんだけど、こちらのヒゲにメガネで、お妾さんもたっくさんっていう社長役のほうが似合ってたかもしれないよ(^m^)
商細蕊がかなり食いしん坊で、撮影時、尹正(インジェン)氏は本当にモリモリと食べさせられていたらしく、どんどん太ってっちゃったんだそうで。でもそれも監督の意向だったらしくて。確かに、かなーり丸々してんね…ってシーンもありました。元に戻すのは大変だったでしょうねえ。
彼は中国ヤマハのレーサーでもあって、王一博と一緒の写真なんてのもネットに落ちてました。先輩って感じかな。
あ、後半、商細蕊が別の劇団で虐げられていた小周子(シャオジョウズ)という、実は素質がある少年を弟子に取って、終盤はほぼ一人前といえるくらいにまで成長するんですよね。ほんっと良かったなと思うんだけど、この世界、能力あるライバルを嫉妬して蹴落とそうとする動きが目立つのに、商細蕊にだけはそれが一切ないんですよ。くだらない嫉妬をするようなヤツらなんて、役者としてもたかが知れてるから、歯牙にもかけないってこともあるのでしょうけど、この人だけは、本当に相手に実力があると見れば、素直に認めて敬う。めんどくさい性格(笑)だけど、そこだけは本当の意味での役者バカなんだなーと思います。
ラストシーンは、どう解釈したらいいものか。
多分、映像のまんま、だったのでしょうね。切なく美しく哀しい。
幻を見るほど、二旦那は商細蕊に来て欲しかった。なりふり構わず、商細蕊も必死で走ったけど。
これからあの時代に突入していくことを考えると、商細蕊と程鳳台の再会はなかったのかもしれません。
時代情勢的に、どうしても日本が、日本軍が出て来るのは仕方ありません。戦争を語る言葉は持たないのですが、坂田という将校をしておられたのは、「有翡」の聞煜将軍役の方だったんだけど、百度の個人ページには載ってないんですよね。京劇ファンの雪之城という、日本軍の将校九条の弟役の方も同様。ま、いろいろあらーな。
モブの兵隊さん含めて、日本人役の人達も多かったために、時折、日本語なんだよね?なセリフも飛び交ってましたが、逆によく聞き取れなかったりして。
ただひとつだけ、ここだけは日本人、みんなが思うと思います。
あれを歌舞伎といっちゃーいけねーよぅ?(笑)
作品情報
- 制作 中国 2022年発表 全49話
- 原題 鬓边不是海棠红
- プロデューサー 于正(ユージョン)
- 監督 恵楷棟(フイカイドン) 温徳光(ウンダーグァン)
- 脚本 水如天児(シュイルーティエンアル)
コメント