演技に引き込まれてしまったんですよ。主人公2人の。
周冬雨(チョウドンユイ)と易烊千璽(イーヤンチェンシー)。
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易烊千璽くんは、「長安二十四時」の李必(りひつ)、子狐りひっちゃんだった訳ですが。
いやあ、すごくなーい?この子。
するりんっとしたエエトコのボンの有能官吏がめっちゃハマってたと思えば、こちらは、どこからどう見ても、貧しくて教育も満足に受けられなかった、だけど心優しい街のチンピラ。
あちらはホントに小綺麗で賢しい子狐だったけど、こちらはちょっとスケートの高橋大輔を小汚くしたみたいな感じのワイルドさ。
ウィキによれば、撮影時期が「長安二十四時」は2017年11月11日から、「少年の君」が2018年7月から9月までだったらしいので、どちらも2000年11月28日生まれの彼が、17才の時に演じた作品なんですよ。
その間、2018年1月に大学の演劇試験を受け、6月にこの映画にも出て来る高考(ガオカオ)という統一学力試験を受け、8月30日に中央戯劇学院に入学しています。
既に大学は卒業しているはずですが、余り露出が多くない感じがするのは、それだけ出演作を選んでるってことでしょうか。映画志向なのかな。
周冬雨はもうかなり有名な女優さんで、撮影時、既に26才くらいだったみたいなんだけど、あっさり目の顔立ちでガリガリに痩せていて、高校生役に全く違和感がありません。こういうタイプは化粧化け、否、化粧映えするでしょうねえ。どういう雰囲気にも持ってけるお顔立ち。
イボくんの映画「長空之王」にも出てたんですよね、そういえば。雷宇と心を通わせる幼馴染の同僚役で。淡い淡い、恋愛感情みたいなものも匂わせる感じで。
正直なところ、ちょっと勿体ない使い方な気も致しました。あの映画では、体作りから何から、イボくんがとっても努力したのは分かるし、胡軍(フージュン)さんという大ベテランががっつり締めてくださっていたけど。「無名」の感動には及ばなかった、個人的に。
彼女がヒロインで、金城武と共演している「恋するシェフの最強レシピ」が、U-NEXTで今月いっぱいなので、急いで見とこうと思うほどに、この映画の周冬雨は素晴らしかったんですよ。
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映画の主題はいじめ問題であると、冒頭でのテロップや、ラストにも易烊千璽くんのナレーションが流れます。
それを主題としてって強調してるところには、いろんな思惑が感じられる気は若干するものの、いいよ、まあ、そういうことで…と思いつつ(笑)英文タイトルが「Better Days」なので、目指すはソコってことなのでしょうし。
で、やり切れなさや哀しさを纏ったボーイミーツガールの物語が展開していく訳です。
映画は、周冬雨演じる陳念(チェンニェン)が大人になった姿で、生徒たちに英語を教えているシーンから始まります。
なので、学生時代、悲惨なことがあったとしても、少なくとも彼女には、それを乗り越えて大人になっている今があるということが分かります。不安定にゆらゆら揺れるつり橋の向こうには、確かな地面があるからねって、最初に提示して貰えた安心感。
陳念と小北(シャオベイ)の笑顔も映るんだけど、英語の授業のシーンとは陳念の髪型が違っていて、その笑顔は授業をしている大人になった陳念の現在とは違う、少し前のもの。
だから、今現在小北がどうなっているのかは分かりません。安心感とは言ったものの、地面には片足しかついていない感覚。
そんな中、始まっていく、少年少女だった過去の物語。
陳念の通っていたのは、高考を控えた受験生たちだけが集まっている学校らしい。
だから全員、真剣に受験に挑む学生達なんだけど、そこに陰湿なイジメが存在していて、胡暁蝶(フーシャオディエ)というクラスメイトが、飛び降り自殺してしまう。
彼女の様子がおかしいことに陳念は気付いていたし、彼女が助けを求めているんだろうことにも気付いてたみたいな描写でしたが。
何しろ、大事な受験前。彼女にしてやれることは何もなかった。
かなり成績優秀だった陳念は、母親と2人暮らしで余り裕福ではなく、なんとか北京の大学に合格して、この街から出て行くことで、自分の未来を切り開いてやるんだって強い意志を持ってたから。
それでも、校庭に倒れている彼女を、遠巻きにしながらスマホで撮影している生徒達の中でひとりだけ、その亡骸に歩み寄り、上着をかけてやったんだけど。
それをイジメっ子魏萊(ウェイライ)達に、見咎められてしまうんですね。
で、彼女達のターゲットは陳念に移ります。
そそ、魏萊役は「山河令」阿湘の周也(ジョウイエ)ちゃんだったー。彼女もスゴイの。目が死んでる。口元に品がない。山河令ではそう感じなかったので、これも演技ってことだよねえ。口元はお直し、じゃないわよね?分からないケド。
てかさあ、自分達がイジメてた子が自殺して、そんな姿を見られたくないだろうと上着をかけてやったクラスメイトを今度はターゲットにするという、そこの心理状態って、どうなっているんでしょう。
何より、自分達の行為で人が死ぬ。その事実が何も心に響いていない子供に、更生の余地なんてあるんだろうか。てか、なんでそうなった?しかもこれ、高校生よね、中学生じゃないのよね。高校生ってもっと大人じゃないの?
少なくとも、将来を見据えて受験を控えた高校生が、なんでこんなガキなんだろうか。本当に目標があったら、そんなコトに意識を向けてる暇なんかないだろうと思うんだけど。
あちらの受験が日本の比じゃないってのは、聞いてますが。
家庭環境等々で、裕福だからこそ逆に受験するしないを選ぶこともできず、自らの目標も持てず、否応なしに親の押し付けに流されるしかない子達が、捌け口を求めてる、みたいな構図もあったりするんでしょうかねえ。間違いなく、親子関係で歪んでる台詞もあったし。
「家族の名において」に出て来る強烈な母親たちを見てると、そういうのもなきにしもあらずかなと思ってしまう。
そんな中、帰宅途中で、3人の男達に殴られている小北(シャオベイ)を目にした陳念は、思わず通報するんだけど、見つかってしまい、お金を取られちゃいます。更に、血だらけの小北にキスしろと迫られる。まあ、従うしかないよね、逆らったらもっと何されるか分からない。
だけど陳念を巻き込んでしまった小北は、力を振り絞って立ち上がり、主犯格の男をボコボコにして、フラフラと去って行きました。
きっと捕まった時に落としたんでしょう、陳念のスマホは画面がおかしくなっちゃってました。
でも後日小北が現れて、取られたお金を返してくれ、スマホも修理してくれるんだよねえ。
そこで、金を払えば守ってやると言われた陳念は、自分さえ守れない癖にと言い返し、私は大学へ行くの、あなたとは違うと続けました。
街のチンピラと自分とは違う。そう思い、小北を見下すことで、自身を守ってる感。
だって陳念だって母子家庭で、母親がまがい物のフェイスパックを売りつける商売をしているせいで、苦情と悪口に晒される生活をしている訳だよ。結局、母親はこの街での商売が立ち行かなくなり、陳念を置いて出稼ぎに行くしかなくなる、そんな環境。
でも親子の仲は悪くはなく、母親は頭のいい陳念に期待して応援してる。ただ生活費の稼ぎ方がいまひとつ真っ当じゃないだけで。それもタイガイだけど(笑)
やってることは詐欺まがいでも、母親が自ら稼ごうとしているだけ、娘を捨てようとしていないだけ、まだ陳念はマシなのかもしれない。
ちょいとムッとはする小北だけど、まあ、そんなふうに見られるのも慣れてるんだろなあ。街の防犯カメラからは顔を隠すようにフードを被りつつ、陳念を送ってったりする訳よ。既に小北は、陳念が気になってるんだろねえ。
で、送ってった家の周辺に、陳念の母親をペテン師と糾弾する張り紙があるのを見てしまう。頭のいい受験生でも、環境的にはいまひとつなんだなと、小北には気付かれてしまったことでしょう。
母親の件が学校のみんなにも知れ渡った夜、なぜかそこに通りがかってくれた小北のバイクの後ろに乗った陳念。
ちょっと、危ないわよって思うくらい、2人は離れて乗ってるんだよね。バイクの2ケツなのに。
だけどこれが、2人の心が近付くにつれて、乗り方も変わっていくんですよ。象徴的に。
当然、その表情もね。それがとても良いんだ。うん、とても。
後ろで黙って泣いている陳念に、何も聞かずに小北は自分のほったて小屋みたいな家に連れていきます。
だけどまだ陳念はハリネズミみたいに突っかかるし、そんな陳念に小北は怒っちゃったりしてますが。
学校でのイジメがエスカレートしていき、階段から突き落とされた時、陳念は胡暁蝶の事件の時に知り合った刑事の鄭易(チェンイー)に通報しました。
イジメっ子3人は停学になったけど、受験はさせることになったらしいよ。
陳念と魏萊は、志望校同じじゃなかった?受験さえ終われば、北京に行きさえすればっていう、陳念の希望に暗雲。
この鄭刑事もさー。
学校のイジメの酷さを目の当たりにして、魏萊の異様さに直面して、若いから真っ直ぐに、なんとかしたいと思ったみたいなんだけど、この人はねえ。警察なんだよ。先輩刑事も言ってますが、その枠の中でしか戦えないし、守れない。仕方ないとは言え。
あ、この先輩刑事は、どこかで見たと思ったら「開端」の運転手、ワン・シンドー演ってらしたー。
鄭刑事は、事件に対して親身にはなれても、陳念自身の心にも寄り添えているとは言い難く。
クラスメイトで唯一陳念を気にしてくれてる男の子もそう。ま、この子は仕方ない。胡暁蝶の時に、気にはなっていても何も出来なかった陳念と同じだから。
後に小北の存在に気付いて、ストーカーがいる!となって、逆に自分がストーカーみたいに陳念を追いかけてるのはご愛敬(^m^)
イジメっ子3人のうちの1人の親は、学校まで娘を連れて来て教師に直訴し、みんなの見ている廊下で怒り狂って娘を叩く。どれだけ人生がかかっているんだろうか、あのお国の受験には。
とか考えるとだね、ますます冒頭とラストのイジメは云々という文章に、ある種の意図を感じてしまうという。受験を控えた高校生の場合は特に、システムそのものがそうだから、親がそうなり、子供がそうなるのでは?のほうに意識が向いてしまうから。で、いんや、ちゃんと国を挙げて対処しています、ええ、していますともさっ!ってプロパガンダに見えるのよね。
あの政府広告!的な写真なしで、ナレーションだけなら、その風味は少し弱まったとは思います。
受験まで一か月半って時に、停学処分になった3人から襲われた陳念。鄭刑事に電話しても、取り調べ中で出てくれなかった。道端のゴミ箱の中に隠れて、事なきを得た頃、折り返し電話がかかって来たけど、その着信音で相手に気付かれそうになったりね。この2回の通報は、結局警察は仕事という枠の中から手を差し伸べてくれるだけだと、日常で狙われ続ける陳念が見限るのに十分な出来事。
ただ、何に使おうとしたんだか、ネズミを持ってた子は、ごみ箱の中に気付いてたんだと思う。でももう魏萊に従うのがイヤになって見逃したのでしょうか。これが廊下で親から叩かれてた子なのかな?
陳念は小北の家に逃げ、以降、小北にボディガードを頼んで、小北の家から学校にも通うようになります。小北も「小北にひとつ借り」って書いとけ、で、助けてくれるようになっちゃう。
あれほど、自分はアンタとは違うと言い続けてきた陳念だけど、学校に通って教育を受けられたか否かの違いだけなんだよね、2人は。孤独なのも環境に恵まれてないのも一緒。だから、深いところで心が通い合ってしまうのは当たり前。
でも、何も起きない可愛らしさ(笑)
最初は、ベッドとソファに分かれて眠った2人が、一緒にベッドに横になるようになっても、ぽつぽつと会話するだけの可愛らしさ。
最初に家に連れて来た時は、力ずくでどうにだって出来るんだぞと、脅すようなことした小北なのにね。2人共饒舌じゃないからこそ、お互いの心の欠乏を埋め合うような、表情から伝わる、大切な時間。
少年から大人になりかけの、危うさの残る年齢の男の子としてはさ、もうこの頭のいい、自分にはない大きな夢を持った女の子が大切になっちゃってるんだよね。
殴られて傷が出来て、それを誰かに痛い?なんて聞かれた記憶すらないような子が、初めて自分にそう言ってくれた子を、守りたいなと思うようになる。
本当に、心が締め付けられる。
陳念と一緒に暮らすようになっても、小北の生活は変わらず危ないことに塗れた日々なんだけど、でも陳念の登下校は、つかず離れずの場所でちゃんと守っていてくれる。陳念にとって、これほど心強いことはない。それで彼女が笑顔になることもないんだけど、チラチラと確認するのが良いですわ。
その絵ズラも可愛いのなんの。一見したら、確かにストーカーに見えるんですケドね(笑)
それだけじゃなく、知らないところで小北は、陳念に近付くなと魏萊を脅してもいました。
2人がぴったりくっついてバイクに乗れるようになった頃。
私と一緒にここを出ない?と言われても、どうやって?としか返せなかった小北は、自分に将来があるなんて考えたこともなかったんだろうなと思わされましたよ。
いつか並んで表通りを歩けるよ。
でもこの言葉で、未来に淡く思いを馳せたんじゃないかなあ。陳念と一緒の未来に。
だけどそんな時。
婦女暴行の容疑者探しに巻き込まれ、仲間と遊んでいたところを連行されてしまった小北。全く覚えがない小北は仲間達とふざけて笑いながら拘留されていて、陳念とは連絡が取れず、一日だけ、ボディガードができなかったんだけども。
そのたった1日の間に、夜、帰宅途中の陳念は襲われてしまいます。
魏萊がたくさん仲間を連れてたので、多分小北が拘留された婦女暴行の疑いってのも、きっとソイツらの仕業なんでしょ。で、小北たちが怪しいと通報もしたんでしょ。小北を陳念から遠ざけるために。
陳念は暴行され、髪も切られ、本も破られ、服を脱がされて動画も撮られ。
ただ路地裏で騒いでいたので、上のほうの住人から通報したぞと叫ばれて、魏萊はその路地にも防犯カメラがあったことに、ようやく気付きます。
その顔がね。え、大変なことになるの?これ?みたいな。
頭いいはずなのに、バカだよねっていう。どうして街中でこういう行動に出たらどうなるのかってところまで、頭が回らないんだろう。小北だってフードで顔隠すぞ?(こちらは経験則か(笑)
感情的に暴走しちゃう人って、こういうとこあるんだろうか。本当に意味が分からない。
ようやく釈放された小北が家に戻ると、ボロボロになった陳念が泣きながら、破られた教科書をテープでとめていました。
逆上して飛び出して行こうとする小北を、陳念が抱き着いて止めます。
ここの陳念の泣き方も、なんだかすごかったよ。
小北は、涙を流しながら陳念の髪をバリカンで丸坊主に刈り、自分の頭もお揃いにしました。並んで写真に写る2人。
高考の初日。試験に挑む陳念を少し離れた場所から、頑張れよと呟いて見送る小北。
でもこの時には既に小北は、様々済ませていた後だったのよね…
そして試験の最中、工事現場で女性の変死体が発見され、それが魏萊だったと分かります。
ここからがね。
ちょっともう、涙なくしては見られなかった。
君が世界を守るなら、俺は君を守る。
きっと一旦は、自分の未来なんてものを垣間見ようとしてしまっただろう小北が、やっぱり元々自分には金も頭も未来なんてのもないけど、好きな子がいる、彼女にだけは幸せになって貰いたい、と言う。
陳念は見捨てないと泣くけど、それを遮って、自分はどうなっても、陳念さえ成功すれば負けずに済むと言う。大人になったら、また会えるから、と言う。
警察の尾行の前で、わざと小北が陳念を拉致して廃虚に連れ込むシーンも、拘束されている小北に陳念が2度、会うシーンも、全部全部、もー、持ってかれてしまいました。
あとね、警察はステレオタイプな大人の論理で裁こうとして、2人とのズレも浮き彫りになってましたねえ。
女性の刑事は陳念を、イジメられたらその復讐をするだろうって考え方で落とそうとする。
だけど陳念は聞くんだよ。普通は復讐するの?と。
私は受験だけを考えて、耐えて来た。間違ってる?
復讐が普通の世界なら安心して子供が産める?と。
これが紛れもない本心で本音なんだけど、やられたら報復するだろう、復讐するだろう、それが当たり前だろうって大人には、きっと陳念の言い分なんて信じられないんだろうなあ。一応、虚を突かれた顔にはなってたけど。
小北に対峙したベテラン刑事もまた、母親が今の姿を見たらどう思うだろうとか言いやがる。
容疑者に対して母親を持ち出すのは常套手段なのかもしれないけど、13やそこらで、おまえがいるから男に捨てられたと、肉まん食べさせて喜んでるところを殴って捨てた母親を、息子が懐かしい会いたいと思うと思うのか。そんな母親に連絡したヤツに心を開くと思うのか。てか、そんな母親、連絡しても来ないだろうよ。
それまで、へらへらと答えていた小北の目が、獰猛な獣みたいになったのに気付いたかねえ、おっちゃん刑事は。
どんなに心を抉ろうとする尋問にも屈しなかった2人だけど、最終的に鄭刑事がついた嘘は卑怯なだまし討ちみたいだった。根っこにあるのは、身代わりに罪を着せたら陳念がダメになる、だったかもしれないけど、あれは力いっぱい噛み付かれても仕方のない嘘だったよ。
法に照らし合わせれば、悪いのは2人のほうだとは言っても。
冒頭の笑顔の2人の映像は、釈放後、再会を果たした時のものだったんだろね、多分。
そう思って、もう一度見返すと、テレ笑いみたいな笑顔にまた泣けて。
英語学校で、様子のおかしい、多分イジメに遭っていたのかもしれない生徒に、寄り添って歩く陳念の後ろに人影を見つけた時にも、ぶわっと泣けてしまいましたわ。
そこにはもう、防犯カメラから顔を隠してフードを被ったりしていない、小綺麗な小北がいました。
Better Days.
評判のいい映画だというのは知っていましたが、いやー、それに違わない素晴らしい作品だったと思います。
諸手を挙げて、オススメ。
目、腫れた(大笑)ので、涙もろいとご自覚のある方は、外出予定のない時にご覧ください。
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